【旭化成】既成の枠を超えて変化に挑戦する“人財”を育成

2014.09.16

 

1922年の創業以来、石油化学製品、電子部品・材料、医薬・医療、住宅・建材など多岐にわたって事業を展開する旭化成では、「旭化成グループ人財理念」を基本方針として、グループ全体の人材育成に取り組んでいる。
そこでは、研修はどのように位置づけられ、どう実施されているのだろうか。同社の取り組みについて、人材育成施策の責任者である取締役兼常務執行役員の辻田清氏・人財・労務部長に話を聞いた。

 

※文中の役職等は取材当時のものです

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旭化成取締役兼常務執行役員
人財・労務部長 辻田清氏

 

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


変化に挑戦し続ける旭化成のDNAを再定義

――人材育成の理念を再定義されたそうですが、その背景をお教えください。

辻田氏:人材育成のガイドラインとしては、1970年に、社員に何を求めるかをまとめた「社員に期待する」と、人材をどう育成し処遇するのかを規定した「管理者行動綱領」という二つの冊子を作成しています。しかし、作成から30年以上がたって、現状との齟齬が出てきていました。同じ役職でも役割は人によってさまざまになってきていますし、グローバルな視点も欠かせません。
そこで、2006年3月に新しい中期経営計画をまとめた際に、人財理念も一緒に見直すことにしたのです。また、持ち株会社に移行したことで、六つある事業会社にやや遠心力がかかりすぎていたこともあって、人心に求心力を持たせたいという思いもありました。そこで制定したのが「旭化成グループ人財理念」です。

――人財理念をまとめる際のポイントはどんなところにあったのでしょうか。

辻田氏:当社は、化学繊維、石油化学、住宅、医薬・医療、電子部品・材料と、常に業容を拡大してきました。つまり、変化に挑戦し続けてきたことが当社の歴史であり、変化に強いことが当社のDNAなのです。ところがバブル後の”失われた10年”の影響か、変化に挑戦する気持ちが若干薄らいできたように感じていました。そこで、「社員に求めること」の最初に、会社から社員への強いメッセージとして「挑戦し、変化し続ける」というフレーズを掲げました。
この「旭化成グループ人財理念」では、まず、会社として社員に働きがいと活躍の場を提供することを「会社が約束すること」で宣言し、そのうえで、「社員に求めること」と「リーダーに求めること」を記述しました。「リーダーに求めること」のなかでも、「既成の枠組みを超えて発想し、行動する」ことを明記しました。リーダーは、成果を出すことやメンバーの成長に責任を持つことはもちろんですが、枠組みを超えることも重要な役割なのです。組織が大きくなると、自分の役割だけを果たせばいいと思いがちですが、それでは、企業としての革新は生まれません。

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研修は、変化への挑戦に備える場

――リーダーの役割が重要との認識ですが、具体的にはどのようにリーダーを育成しているのでしょうか。

辻田氏:持ち株会社に移行する前から、選抜型で経営幹部候補を育成する「ビジネス・リーダー制」を実施しています。当初は、本人には告知せずに、配置換えを行って、仕事を通して鍛えていこうと考えていたのですが、いまでは、思い切って、本人に選抜されたことを告知したうえで研修を行い、その後で、配置換えを行うようにしました。ただ研修を受けて、それで卒業ではありません。受けた後の成果を実践して見せて、さらに実務を通じてみずからを鍛えてほしいというのが、基本的な考え方です。

――実践に備えての”弾込め”としてOff・JTを位置づけられているのですね。

辻田氏:研修は受けるタイミングが大事です。将来の経営者を育てるには、ぎりぎりの状態で大きな判断をしなくてはならないという修羅場の経験が必要だと思っています。しかし、弊社でも成長に向けた実務の経験を積む機会が少なかったため、新たな成長の機会に際して、何の経験もない手ぶら状態で臨む者も出てきました。これでは「枠を超えて変化に挑戦しろ」と言っても尻込みしてしまうのは無理もありません。したがって、そういった修羅場に臨む前に、必要なスキル習得や意識づけを行うのです。こうした研修の意図や、研修参加者に対する今後の期待・役割をしっかりと説明したうえで受けてもらうと、取り組み姿勢が違ってきますね。「もっと早くこうした研修を受けたかった」という声が聞こえるほどです。意識が違えば学ぶ姿勢も違ってくるのは、当然です。

――人材育成における今後のポイントはどんなところでしょうか。

辻田氏:持ち株会社への移行後、事業会社の責任が明確になったことで意思決定も速くなり、業績も回復しました。一方で、今後はいっそうの成長のため、グループとしてのシナジーを考えていかなければなりません。そこで、OneAK(Asahi Kasei).という観点から見直そうとしています。自社の事業のためだけを考えるのではなく、グループ全体のことを考えるには、共通のベクトルを持つ必要があるのです。
そのカギを握るのは人です。社内で異業種交流ができるほど、当社の事業は多岐にわたりますが、それだけに日常業務を離れて実施する研修は、意識や情報を共有するための重要な役割を担っています。また、もともと人事異動が多い会社でしたが、現在もグループ各会社の人事部長同士で検討して、事業会社間をまたがる異動を従来と同様に行っています。一時は、人材育成も各事業会社に委譲していたのですが、求心力を強化する意図もあり、全社横断での施策を充実させつつあります。こうした研修の場や人事異動によって、自分の知らないグループ他社の事情を推察し、ある程度つっこんだ議論ができる人間関係が培われるのです。さらに、ここから、全事業を見渡すことのできる将来の経営人材が生まれることを期待しています。

――人財”はグループとしての共有財産ということですね。

辻田氏グローバル化が進むなかで、これまで以上に多様性も拡大していくでしょう。それだけに、脈々と受け継いできた当社のDNAをしっかりと刷り込んで、マインド面での求心力をつくることがこれからの課題です。実際に、グローバル化が進んでいる事業ほど、仕事のやり方の共通化などの取り組みを早くから行っています。これからは、何か事業を行うのでも、なぜ旭化成で行うのかの意味を社員が自覚し、理念に共鳴しながら、会社が成長していくような組織文化をつくっていきたいと考えています。

聞き手:グロービス Chief Leadership Officer (CLO) 兼 グロービス・グループ経営管理本部長 鎌田 英治

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。